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From BCM.ミュージック

2004-02-05 更新
今回のミュージックコラムはジェフ・ミルズ。第1回目にお届けしたデリック・メイに続き、黒人テクノDJシリーズ第2弾となります。現在はシカゴ在住のジェフもデリックと同じデトロイト出身ですので、まずはデトロイトという街の音楽背景を簡単にお伝えしましょう。

皆さんにとって、映画「8マイル」の公開以降、エミネムの街、もしくはコアなツアーウォッチャーにはWCTサーファーの間で人気の姉弟ロックバンド、ホワイトストライプスの故郷といった印象をもたれるのでしょうか。しかし、デトロイトはもともと自動車産業で名を馳せた町であり、その労働力として多くのアフリカ・アメリカンを中心にマイノリティー達がかり出されました。その後70年代にかけて黒人達が公民権を獲得するのと時を同じくして、白人達も耳を傾けざるを得なかったあのモータウンレーベルが発足。現在でも数々の伝説を振りまいているマイケル・ジャクソンが少年時代に在籍したジャクソン5や、マーヴィン・ゲイ、スティービー・ワンダー、ダイアナ・ロス(シュープリームス)といったソウルスター達を数多く輩出しました。しかし、ジャパン・アズ・ナンバー1と言われた70年代~80年代にかけて、日本自動車の台頭により多くの自動車工場が閉鎖に追い込まれ、20万人といわれる失業者を生み出した街には退廃的なムードが漂いました。この時期に持てはやされたのは、モータウンで下積みをしたジョージ・クリントン率いるPファンク軍団や、攻撃的なロックサウンドでパンクやガレージのルーツにもなったMC5とイギー・ポップ&ストゥージーズがいます。また、悪魔崇拝的パフォーマンスとコミカルな白塗りメイクで白人ティーン達の心を鷲づかみにしたキッスの人気は、先ずデトロイトで最初に火が付いたのでした。他にもポップアイコンとしての地位を確立したマドンナが、デトロイトから単身ニューヨークへ渡ったのも80年代後半に当たります。

このようにアメリカの中北部に位置し、NYやLAの文化の両方から影響を受けながらも独自の経済背景から生み出された音楽を聴いて育った若い黒人達、ホアン・アトキンス、ケヴィン・サンダーソン、そしてデリック・メイらが、当時にはゴミ同然の価値しかなかったローランド社のリズムマシンとアナログシンセを通して未来を見出し、シカゴで同じく80年代前半に発生したハウスと互いに干渉し合いながらも、バックボーンの相違から独自の方向性のサウンドを生み出し、自分達の新しい音楽をテクノと名付けました。セールス的には国内よりも、80年代後期~90年代前半のレイブシーンの発展と共にリンクしたヨーロッパの方が良かったのですが、ニュースクールヒップホップの旗手であったア・トライブ・コールド・クエストの後期サウンドプロダクションチーム・ウマーの一員だった同じデトロイト出身のJ・D(現在はJディラと名乗っている)も、自身のDJでのセットリストには、デトロイトテクノが含まれていることから推測されるように、この街のクラブシーンにテクノはしっかりと根付いていたと言えます。

今回のお題でもあるジェフ・ミルズは、もともとデトロイトのローカルラジオ局のDJとして80年代後半にキャリアをスタートしました。局の白人オーナーの制止も聞かずパブリックエネミーからナイン・インチ・ネイルズといった、ヒップホップからインダストリアルロックまでをごちゃ混ぜにしてスピンする生粋のDJだった彼が、この街から新しく生まれた音楽に耳を傾けたのは当然の事とも思われます。彼が特にインスパイアされたのはTR-909の抜けの良いドラムサウンドでした。このローランド社の古いリズムマシンが発する音は、一聴しただけではただのマシンサウンドにしか聞こえないのですが、大音量で聞くと、いくら聞いても飽きのこない独特の音色であったため、ディスコやクラブ向けの曲には最適だったのです。ゆえに現在作られているほとんどのシンセサイザーにはプリセットでモジュールされており、この音を使った曲が絶え間なく流れるテレビ・ラジオ等のメディアに接している私達は、実は毎日このTRシリーズのサウンドを耳にしているのです。

さて、初期はレイブ向けのハードコアトラックを作っていたジェフですが、次第に少ない音の配置によって出来たループの面白さを追求していくようになります。その決定打ともいえるサイクル30というEPは、レコードの盤面には8本の繋がった溝が掘ってあり、1つの溝に8小節のループトラックが録音されているだけで、自分の手で操作を加えないかぎり、いつまでも一つのトラックが永延と流れるのです。彼の深意はわかりませんが、3台のターンテーブルを駆使してミニマルな曲を驚愕の速さでミックスし、巧みなイコライジングと派手なカットインによるエディットで、インプロビゼーションのようにプレイする彼のDJスタイルから生まれた実験的な作品といるでしょう。彼のDJスタイルのフォロアーはヨーロッパを中心とした世界中で発生し、現在ではSurgeon、Joey Beltram、UMEK、田中フミヤ、といったDJ RUSH Oliver Hoらが作り出すEPが互いのレコードバックを埋めあうといった成熟したシーンを形成しています。
さて、肝心の音の方はというと、基本にのっとったハウスビートから、全く意味を持たないような言葉のヴォイスループ、リズムの跳ねたファンキー物、さらにはサルサチックな物から、ポリネシアビートのような、古代の舞踏曲に近いトライバルなビートを用いたものなど、多種多様な様相ですが、どのトラックもDJにミックスされることを前提に作られているため、各個人のアーティストの作品を手にするよりかは、ジェフを中心とする、前述した名の知れているDJがミックスしたCDを探した方が、この手のジャンルではいいと思います。