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「ブラジリアンが席巻するWSL勢力図に日本は絡んでいけるのか」-F+

2021-10-18 更新
Text by つのだゆき

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Photo: WSL/Nolan

●質問: 近年、WSLをブラジリアンが席巻していますが、この先のWSL勢力図はどう変わっていくと考えますか? そこに日本は絡んでいけるのか、ジュニア世代の育成状況等、ユキさんの見解をお聞かせ下さい。

まぁ、この先何年かはガブを先頭に、みんなしてそこに追いつけ追い越せという時代なんだろうと思う。シーンというのはいつもそうなんだけど、誰かが技術革新を成し遂げて頭一つ抜け、みんながそれに追いつこうとレベルをあげていくことの繰り返しだ。ブラジリアン3羽ガラスの中でもガブは別格で、イタロにしてもフィリッペにしても、バックドアやチョープーでのパフォーマンスを考えると、まだだいぶ差を詰めなくてはらないと思う。ジョンジョンも安定感が課題。そろそろオーストラリアからタイトル争いに絡む若手の実力者が出てきてもいいのかな、とは思う。端境期長すぎ(笑)。

さて、そこに日本が絡んでいけるのか、だけど、まぁ、短いスパンでは無理かな。皆さん二言目にはジュニア世代の育成とおっしゃるけど、私は10年以上前から、日本のサーファーの育成に関して問題なのはそこではない、と主張している。もうずいぶん前からジュニアというカテゴリーでは日本は世界でもトップクラスの実力を誇っているのだ。ジュニア世界一というタイトルだってゲットした。海外の人から見たら、ジュニアの世界トップレベルの次はCTなので、すぐにでも日本からCT選手が生まれる、と、もう10年以上にわたって思われていて、それが何で出てこないのか、と、不思議がられている。ジュニアではあんなに強いのに……という、外から見たら日本は非常に不思議な国なんである。

昔から外国人記者とかにとてもよく聞かれたことなので、いつも考えていたのだけど、指摘される通り、ジュニア卒業までは順調なのだ。問題はそこから先、ジュニアからシニアへのスムーズなトランジションだ。日本の選手育成シーンではここが大きなネックになっている。
大原洋人がUSオープンで優勝してからもう6年がたつ。いま、チャレンジャーシリーズで対等に戦ってはいるものの、海外なら10000を優勝したら数年でクオリファイというのが普通のルートだし、それ以上かかる場合はすでにトップシーンから名前が消えているだろう。日本の問題はここなんである。

年齢的にはジュニア後から20代前半とかだろうか。ジュニアからシニア、つまり普通のQSツアーに出始めるとき、実はいろいろなことが大きく変わる。
まず、男女ともに体つきがジュニアから大人に変わる。そうなれば板も変わる。そして世界では、サーフィンがジュニアのそれからシニアのそれへと変わる。そこが変わらないと、シニアのツアーでは歯が立たない。ジュニアのサーフィンとシニアのサーフィンは別物だ。最も大きな違いはレールワーク。ジュニアの脚力ではできない、まだやったことのない正確なレールワークを手に入れなくてはならない。海外の選手が19歳ぐらいで一気に身体とサーフィンが変わるような変化が、日本人選手にはない。ガブだってクオリファイした当時と今では、肉体もサーフィンも別人だ。
ところが日本では、そう考える選手も指導者もいないようなので、ジュニアのサーフィンに毛が生えたレベルで、というか、ジュニアのそれをもっとつきつめた形でシニアツアーに行ってしまう。結果歯が立たないということになる。

世界レベルのジュニアでいい成績とか、10000で優勝とか、そういうドカーンが来ると、日本では国内に敵なしになってしまう。どこのポイントに入ったって一番自分がうまい、という状況。お手本を海外に探すしかない。それでもお手本を海外に探して血のにじむような努力する選手ならいいが、たいていの場合はある程度の満足感は得てしまう。だって、日本人なんて相手にしてられないぐらい自分はレベルが高いから。まぁ、若いっておバカなので、その気になっちゃうのはしょうがないと思う。で、外に出て思うようにいかなくて、グチャグチャする、という時間が長く、その間に選手としてのピークの年齢は過ぎてしまう。

これが海外だと、10000で優勝しようが何だろうが、海に入ればCT選手が上にいるわけで、何ならワールドチャンピオンもいますよ、的な、まだまだ階段は続くし、その上の階のサーフィンが日常的に近くで見られる。この差は大きいと思う。自分もああならなくちゃ勝てないんだ、と思うのと、普通に国内敵なしで勝てちゃうのは、意識がだいぶ違ってくると思う。

そうねぇ、安室丈あたりの年代? 今JPSAランクトップだけど、あの辺が自分のサーフィンに疑問を感じて、全体的に構築し直す覚悟で改革の努力をする。それをさせる指導者やそれを受け入れる意識の高い選手が出てくれば、6年かかった大原の長い努力をショートカットできるんじゃないだろうか、と思う。
でも勝ってれば何も疑問に感じないだろうし、練習じゃ他の人よりうまいわけだからねぇ。
それでも私に言わせれば、お~い、みんなレールワーク違うよ~、って感じ。一番大きな問題は、本人や周囲の人がジュニアとシニアの差がわからないことなのかな。なんで誰かあそこ直してやらないんだろう、といつも思っている。

まぁ、ジュニアの金字塔を打ち立てたチームから離れられない、という弊害もあるか。親子鷹も時には弊害になる。というより、親の指導はジュニアまで、だと思う。

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Photo by snowy

写真は1997年徳島プロ。優勝ケリー、2位オッキー。こういうお手本が毎年日本で見られた時代。賞金額の違いもさることながら、毛のあるケリーの身体は今の半分ぐらいかなぁ、とか思ってしまう。21世紀のサーフィンは肉体づくりからですから
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