世界のサーフライダー教育事情/ヨーロッパ・フランス編
2005-02-02 更新
News From S.F.J.2005 vol.2
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ヨーロッパのサーフィン史は、英語圏であるイギリスから広まったものと、フランスが中心の本格派サーフィン、このふたつに分かれるようだ。イギリスはどうしても気候条件に左右(やっぱり寒い)されやすいが、フランス、それもスペインとの国境付近のバスク地方は、冬でも水温は問題ないそうだ。
現在、ヨーロッパのサーフィンの中心地はこのフランスという感じだが、サーフィン・ブームはヨーロッパ全土に広がっているという。といっても、サーフィン人口は日本の方が多く、ヨーロッパ全土をあわせても日本の10分の1くらいだそうだ。
このフランスでS.F.がスタートしたのは日本より少し前の、1991年。そんなに古くはないが、日本との大きな違いは、海岸問題が少ないとういこと。つまり、海岸沿いのでかい工事とかはほとんど無いそうだ。すこし心配なのは、海岸のゴミとか汚染。そんな感じだから、団体が活動した当初から、教育プログラムには力を入れていた。早くから教育専従スタッフも確保している。
フランスで子供を対象にしたプログラムが盛んなのは、実はサーフィンの歴史と関係が深い。比較的サーフィンの歴史が短いこの国では、まさに今がサーフィンブームのまっただ中で、大手サーフ・ブランドの進出も積極的だ。そんな雰囲気とともに「サーフィン=環境にやさしいスポーツ」というイメージもしっかりと定着していて、子供たちにサーフィンを体験させたいと願うお父さん、お母さんがものすごく多いそうだ。だから、最初から環境のことをしっかりと植えつけたいという、S.F.の戦略もマッチして、確固たるマーケットを確保している。そして、それに協力するスポンサーも多いという。
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フランスは世界で唯一、子供を対象にしたkidsメンバーシップがある。別名クラブトミー。kids向けのニュースにはイメージキャラクターとしていつも登場する男の子のサーファーがトミーで、フランスにサーフライダーを紹介したトム・カレンがモデルだ。さしずめ、日本で言ったら、「波太郎今日も行く!」というノリ?
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(環境展示プログラム)
サーフィン文化の普及に積極的なビアリッツ(S.F.ヨーロッパ事務局のある町)では町を上げてのサーフィン・イベントを行っている。それは大会から環境イベントまでひとつになったもので、その環境部門をS.F.フランスは請け負っているのだ。
そして、その目玉が子供の参加型教育プログラムで、遊びながら海岸のゴミのことを考えたりできるブースを出している。(とうとうゴミ拾いコンピューター・ゲームまで開発したそうだ)
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<波と海岸>
(移動型環境ブース)
ビアリッツの展示で実績を積み重ねて、次に取り組んだプログラムがこれ。副題が、L`Expo Surfrider Foundationとなっていて、「サーフライダーのエキスポ」がこのプロジェクトのコンセプトだ。
イメージして欲しい。2トントラックのコンテナにすべての機材を積みこんで、フランスの大きな町、パリ、ボルドーなどを移動する。そして、約200㎡(約40m×50m)の広さに、「海の移動エキスポ」を展開するのだ。ひとつの町でその展示を行い、近くの学校から子供を集める。展示の内容は、波ができるメカニズム、海の生物、砂浜の生物、海岸環境、海岸のゴミ、海の汚染、もちろんサーフィン・ビデオも。海環境のすべてがテンコ盛りで、小学生から高校生まで、そして大人も十分楽しめるのがこの移動型環境ブースなのだ。
このプロジェクトを完成させるためには、前S.Fフランスの事務局長ピエール・ニュークレがコンサルタントとして関わり、13万ユーロ=1,750万円の予算と1年以上の時間をかけてコーディネートしたそうだ。今後5年をかけて、フランス全土を回るという。
さらにこのプロジェクトと合致する形で、SURF Sessionというサーフィン雑誌社の協力を得て、Vagues et Littoralというタイトルの環境本が全国で発売されている。街角のコンビニや駅のキオスクでも販売されていた。恐るべしフランス、をつくづくと実感した。
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【総括】
フランスのサーフィン人口は日本よりも少ない。波も豊富で自然の海岸がしっかりと残されている。スポーツ・クレイジーな国民性ではないが、サッカーに見る運動能力は高く、サーフィン界でも世界の檜舞台に登場するのもすぐそこだろう。
そして、そんなサーファーは子供の頃から、しっかりと海岸環境についての知識も持っている。ヨーロッパの環境意識は世界的に高く、サーファーは社会の中で海のエキスパートとしてしっかりとした足腰を固めているのだ。
純粋なサーファー人口が少ないことに対しても、キッズメンバーをつくって、サーファーでない層からもしっかりとメンバーシップを集めているのは注目に値する。日本の方向性も、このあたりに未来が隠されているんじゃないかな。
(文:上田真寿夫=S.F.インターナショナル準備委員)